過敏性腸症候群(IBS)
過敏性腸症候群(IBS)について
過敏性腸症候群は、腹痛とともに下痢や便秘などの便通異常を繰り返す病気です。英語の「Irritable Bowel Syndrome」の頭文字をとり、「IBS」とも呼ばれます。
通常の検査では、症状の原因となる明らかな腫瘍や炎症などが見つからないにもかかわらず、腹痛、下痢、便秘、腹部膨満感などが続くことが特徴です。
命に直接関わる病気ではありませんが、
- 通勤・通学中に急な便意が起こる
- 会議や試験の前にお腹が痛くなる
- 外出先のトイレが心配になる
- 便秘と下痢を繰り返す
- お腹の症状が気になり、仕事や外出に集中できない
など、日常生活や仕事、学校生活に大きな影響を及ぼすことがあります。日本消化器病学会の患者向けガイドでは、日本人のおよそ10%程度にみられる、比較的よくある病気とされています。
過敏性腸症候群の主な症状
過敏性腸症候群では、次のような症状がみられます。
- 腹痛を繰り返す
- 排便すると腹痛が軽くなる、または変化する
- 下痢を繰り返す
- 急に強い便意が起こる
- 朝や通勤・通学時にお腹が痛くなる
- 緊張すると下痢をする
- 便秘が続く
- 硬く小さな便が出る
- 強くいきんでも便が出にくい
- 便秘と下痢を交互に繰り返す
- 排便後も便が残っている感じがする
- お腹が張る
- ガスが多い
- 便に粘液が付着することがある
- 食事の後に症状が強くなる
- ストレスや睡眠不足で症状が悪化する
症状の強さや現れ方には個人差があり、同じ方でも時期によって下痢が中心になったり、便秘が中心になったりすることがあります。
なお、血便は過敏性腸症候群の典型的な症状ではありません。血液が混じる場合は、大腸がん、大腸ポリープ、潰瘍性大腸炎、痔など、ほかの病気を調べる必要があります。
過敏性腸症候群の4つのタイプ
過敏性腸症候群は、便の形や便通の状態によって、主に4つのタイプに分けられます。
下痢型(IBS-D)
軟らかい便や水のような便が多く、突然の便意や下痢を繰り返すタイプです。
- 通勤・通学時にお腹が痛くなる
- 電車に乗るとトイレに行きたくなる
- 緊張すると下痢をする
- 1日に何度も便が出る
- 食後すぐに便意が起こる
などの症状がみられます。
便秘型(IBS-C)
硬い便や小さく分かれた便が多く、排便しにくいタイプです。
- 便が硬い
- 強くいきまないと出ない
- 便が残っている感じがする
- 腹痛やお腹の張りを伴う
- ストレスが続くと便秘が悪化する
などの症状がみられます。
混合型(IBS-M)
下痢と便秘の両方を繰り返すタイプです。
数日間便秘が続いた後に下痢になるなど、便の状態が大きく変動します。
分類不能型(IBS-U)
過敏性腸症候群の症状はあるものの、下痢型・便秘型・混合型のいずれにも明確に分類できないタイプです。
治療は、診断名だけでなく、その時点で最も困っている症状に合わせて選択します。
このような方はご相談ください
- 腹痛と下痢を繰り返している
- 便秘と腹痛が続いている
- 下痢と便秘を交互に繰り返している
- 朝になるとお腹が痛くなる
- 通勤・通学中の便意が不安
- 緊張すると下痢になる
- 排便すると腹痛が軽くなる
- 食事をするとすぐに便意が起こる
- 腹部膨満感やガスが気になる
- 市販の整腸薬や下痢止めを使用しても改善しない
- 症状のために仕事、学校、外出に支障が出ている
- 感染性胃腸炎の後から腹痛や便通異常が続いている
- 過敏性腸症候群と診断されたが、症状が変化した
- 下痢や便秘の原因を一度きちんと調べたい
一時的な下痢や便秘ではなく、症状を繰り返している場合や、日常生活に支障が出ている場合は、我慢せずに消化器内科へご相談ください。
過敏性腸症候群と決めつけてはいけない症状
腹痛、下痢、便秘は、大腸がん、炎症性腸疾患、感染性腸炎、甲状腺疾患などでも起こります。
次のような症状や検査異常がある場合は、過敏性腸症候群と自己判断せず、早めに医療機関を受診してください。
- 血便が出た
- 便潜血検査で陽性を指摘された
- 発熱を伴う
- 原因の分からない体重減少がある
- 貧血を指摘された
- 血液検査で炎症反応の上昇を指摘された
- 腹部に硬いしこりを感じる
- 50歳以降に便通異常が初めて現れた
- 過去に大腸ポリープや大腸の病気を指摘された
- 家族に大腸がんや炎症性腸疾患の方がいる
- これまでと異なる強い症状が現れた
日本消化器病学会の診断アルゴリズムでも、血便、発熱、予期しない体重減少、異常な診察所見、50歳以上、大腸疾患の既往・家族歴、貧血、便潜血陽性、炎症反応陽性などがある場合は、大腸カメラなどの詳しい検査を検討するとされています。
大量の血便、意識が遠のくほどのふらつき、急激で強い腹痛、便やガスが出ない状態、繰り返す嘔吐などがある場合は、速やかに救急医療機関を受診してください。
過敏性腸症候群の原因
過敏性腸症候群の原因を一つに特定することはできません。
次のような複数の要因が関係していると考えられています。
脳と腸の情報伝達の変化
脳と腸は、自律神経やホルモンなどを通じて、互いに情報をやり取りしています。これを「脳腸相関」といいます。
ストレスや不安によって脳から腸への信号が強くなると、腸の動きが過剰になったり、反対に鈍くなったりすることがあります。
過敏性腸症候群は、単に「気持ちの問題」で起こる病気ではなく、脳と腸の情報伝達の変化が関係する病気と考えられています。
腸の知覚過敏
過敏性腸症候群の方では、健康な方であれば気にならない程度の腸の動きやガス、便による刺激を、痛みや不快感として強く感じることがあります。
この状態を「内臓知覚過敏」といいます。
腸の動きの異常
腸の動きが速くなると下痢や急な便意が起こりやすくなり、動きが遅くなると便秘や腹部膨満感が起こりやすくなります。
腸内細菌や腸粘膜の変化
腸内細菌の構成や腸粘膜の状態が、過敏性腸症候群の発症や症状に関係している可能性があります。
感染性腸炎
細菌やウイルスによる感染性腸炎が治った後も、腹痛や下痢などが長期間続き、過敏性腸症候群を発症することがあります。これを「感染性腸炎後IBS」といいます。
過敏性腸症候群の診断
過敏性腸症候群には、血液検査や大腸カメラだけで確定できる特有の所見はありません。
症状の内容や期間を確認し、必要な検査によって大腸がん、炎症性腸疾患、感染症など、ほかの病気がないことを確認したうえで診断します。
国際的には、ローマⅣ基準が使用されています。
ローマⅣ基準の概要
最近3カ月間に、平均して週1日以上の腹痛を繰り返し、次のうち2項目以上に該当することが基準となります。
- 腹痛が排便に関連している
- 症状に伴って排便回数が変化している
- 症状に伴って便の形が変化している
加えて、症状が診断の6カ月以上前から始まっていることが基準に含まれます。
ただし、この基準は医師が診断するための目安です。症状が6カ月未満でも、血便や発熱などがある場合や、日常生活に支障が出ている場合は、期間を待たずに受診してください。
当院で行う主な検査
患者さんの年齢、症状、健診結果、既往歴、家族歴などに応じて、必要な検査を選択します。
問診・診察
次のような内容を確認します。
- いつから症状があるか
- 腹痛と排便の関係
- 下痢・便秘の頻度
- 便の形や色
- 血便の有無
- 発熱や体重減少の有無
- 食事やストレスとの関係
- 服用中の薬
- 大腸疾患の既往歴・家族歴
- 症状が日常生活に与えている影響
排便回数や便の形、食事、腹痛が起きた時間などを記録しておくと、診断や治療方針を決める手がかりになります。
血液検査
必要に応じて、次のような項目を確認します。
- 貧血
- 炎症反応
- 肝機能・腎機能
- 血糖値
- 甲状腺機能
- 栄養状態
過敏性腸症候群に特有の血液検査はありませんが、ほかの病気が隠れていないかを確認するために行います。
便検査
症状に応じて、便潜血検査や感染症を調べる便検査などを行います。
便潜血陽性の場合は、過敏性腸症候群だけで説明せず、大腸カメラによる精密検査を検討します。
大腸カメラ検査
すべての過敏性腸症候群の方に、大腸カメラが必要になるわけではありません。
次のような場合に、大腸カメラを検討します。
- 血便や便潜血陽性がある
- 貧血や炎症反応の上昇がある
- 原因不明の体重減少がある
- 50歳以降に症状が始まった
- 大腸疾患の既往歴や家族歴がある
- 症状が長く続いている
- 治療を受けても改善しない
- 大腸の詳しい検査を希望している
大腸カメラでは、大腸がん、大腸ポリープ、潰瘍性大腸炎など、便通異常の原因となる病気がないかを確認します。警告症状や危険因子、通常検査の異常がある場合には、大腸カメラなどの追加検査を行うことが日本消化器病学会の診断手順でも示されています。
当院では、必要と判断された方に鎮静剤を使用した大腸カメラをご案内しています。
女性医師による大腸カメラをご希望の場合も、勤務日や予約状況に応じてご相談いただけます。
過敏性腸症候群の治療
過敏性腸症候群の治療は、症状のタイプや重症度、生活への影響に合わせて行います。
治療の目標は、症状を完全になくすことだけではなく、腹痛や便通異常を軽減し、仕事、学校、外出などの日常生活を送りやすくすることです。
食事・生活習慣の見直し
まず、次のような生活習慣を見直します。
- できるだけ規則的に食事をとる
- 一度に大量に食べない
- 夜遅い時間の大食を避ける
- 十分な睡眠と休養をとる
- 適度な運動を継続する
- 症状を悪化させる食品を記録する
- 過度の飲酒を控える
- カフェインや香辛料の摂りすぎを避ける
- 脂肪分の多い食事を摂りすぎない
すべての食品を一律に禁止する必要はありません。症状が起きた日の食事内容を記録し、自分の症状と関係する食品を確認することが重要です。
低FODMAP食について
一部の方では、腸内で発酵しやすい糖質を控える「低FODMAP食」によって、腹痛、下痢、腹部膨満感などが軽減する場合があります。
一方で、食品の選択が複雑で、過度に続けると栄養バランスが偏る可能性があります。また、日本人に対する有効性については、さらなる検討が必要とされています。
自己判断で多くの食品を長期間禁止するのではなく、症状や食生活を確認しながら医師や管理栄養士へ相談することが大切です。
薬による治療
症状のタイプに応じて薬を選択します。
下痢型の場合
- 腸の運動を整える薬
- 便の水分量を調整する薬
- 下痢を抑える薬
- セロトニンの働きを調整する薬
- 整腸薬・プロバイオティクス
などを使用することがあります。
便秘型の場合
- 便を軟らかくする薬
- 腸内の水分分泌を調整する薬
- 非刺激性下剤
- 腸の運動を整える薬
- 整腸薬・プロバイオティクス
などを使用することがあります。
腹痛や腹部膨満感が強い場合
- 腸の過剰な収縮を抑える薬
- 消化管の運動を調整する薬
- 漢方薬
- 痛みの感じ方を調整する薬
などを検討します。
市販の下痢止めや刺激性下剤を自己判断で長期間使用すると、症状に合わなかったり、便通の状態を悪化させたりする場合があります。医師に症状を伝え、タイプに合った治療を受けることが大切です。
ストレスへの対応・心理的治療
ストレスによって症状が悪化する場合は、薬による治療に加えて、ストレスへの対処方法を見直します。
- 十分な睡眠と休養
- リラクセーション
- ストレスマネジメント
- 認知行動療法
- マインドフルネス
- 必要に応じた心療内科との連携
などが有用な場合があります。
これは「症状が気のせい」という意味ではありません。
脳と腸の情報伝達が症状に関係しているため、身体と心理の両面から治療することで改善が期待できます。
過敏性腸症候群のよくある質問
Q.過敏性腸症候群はストレスだけが原因ですか?
A.ストレスは症状を悪化させる重要な要因ですが、ストレスだけが原因ではありません。
腸の運動異常、内臓知覚過敏、脳腸相関、腸内細菌、感染性腸炎など、複数の要因が関係すると考えられています。
Q.過敏性腸症候群は大腸がんになりますか?
A.過敏性腸症候群と大腸がんは異なる病気です。
ただし、腹痛や便通異常がすべて過敏性腸症候群によるものとは限りません。血便、便潜血陽性、貧血、体重減少などがある場合は、大腸がんなどを除外するための検査が必要です。
また、過敏性腸症候群と診断された後でも、新しい症状が現れた場合は、改めてほかの病気がないか確認します。
Q.過敏性腸症候群では必ず大腸カメラを受けますか?
A.すべての方に大腸カメラが必要なわけではありません。
年齢、血便、便潜血検査、貧血、体重減少、大腸疾患の既往・家族歴などを確認し、必要性を判断します。
Q.腹痛がなくても過敏性腸症候群ですか?
A.一般的なローマⅣ基準では、腹痛が診断の重要な条件です。
腹痛がほとんどなく下痢だけが続く場合は機能性下痢、便秘だけが続く場合は機能性便秘など、別の機能性消化管疾患に分類されることがあります。
Q.過敏性腸症候群は治りますか?
A.症状が長期間続いたり、良くなったり悪くなったりを繰り返したりすることがあります。
一方で、生活習慣の見直しや症状に合った薬、ストレスへの対応によって、日常生活への影響を軽減できる方は少なくありません。
治療の効果には個人差があるため、症状を記録しながら治療内容を調整することが大切です。
腹痛・下痢・便秘を繰り返している方へ
過敏性腸症候群は、腹痛、下痢、便秘、腹部膨満感などを繰り返し、通勤・通学、仕事、外出などに影響を及ぼす病気です。
症状だけで過敏性腸症候群と判断することはできず、大腸がん、大腸ポリープ、潰瘍性大腸炎、感染性腸炎などが隠れていないかを確認することも重要です。
当院では、症状や経過を詳しく確認し、必要に応じて血液検査、便検査、大腸カメラなどを行います。検査結果と便通のタイプに合わせて、生活習慣の見直しや薬による治療をご案内します。
- 腹痛と下痢を繰り返している
- 便秘と腹痛が続いている
- 朝や通勤時の便意に困っている
- 下痢と便秘を交互に繰り返している
- 市販薬を使用しても改善しない
- 症状によって仕事や外出が制限されている
このような方は、港区芝浦・田町の芝浦クリニックへご相談ください。
